遠州織物の中で衝撃を受けた生地のひとつが瀧本さんの鳳凰柄です。花など万人受けするデザインではなく、鳳凰をモチーフにするあたりは、良い意味で尖がった個性溢れる職人さんだと感じたのです。
そんな感想を伝えると「確かに私は機屋の異端児と言われていますよ(笑)」と瀧本さん。これまでの歩みをお聞きしました。
滝本織布有限会社は昭和40年に先代が機屋を創業。滝本さんは二代目です。当初は産元制度が確立していたため、そこから仕事をもらい生地を納める毎日。自分の織った布がどんな商品になっているのか知る由もなかったそうです。
しかし繊維業界は大きく転換。産元に頼るのではなく自分でやっていかなくてはならない時代に入り、滝本さんは半纏と祭り用品に焦点を絞ることにしました。「なぜなら自分は一年に一回、祭りのときだけ祭り正装姿を褒められていたから」。こうして当時24台あった織機を4台に減らし、独自の路線で勝負していくことを決めたのだそうです。
「機屋の半纏屋さん瀧」のキャッチフレーズで、手染めの半纏やシルクの半纏などの高品質半纏を店内に掲げて本物を提供しつづけることで、やがて逸品を作りたい人に注目されるようになりました。しかし店舗にはもっとリーズナブルな商品を求めるお客様も来店。両者のニーズバランスを保つため、滝本さんは黒猫のゴロを店長とした【黒猫工房 ゴロさんのお店】をスタートさせます。高級半纏の事業と差別化し、ゴロさんの店でさまざまなリーズナブル商品を展示販売するようになったのです
どんな細かなニーズにも対応し、妥協せず丁寧に作り上げる瀧本さんご夫妻の姿勢はリピーターのファンが多く、店にはオーダーメイドの依頼客が代わる代わる訪れます。ペットの散歩用品を収納できるバックやベストなど、独自に設計して作り上げて納品するまで一貫仕事。「手間と時間がかかるのはもちろんですが、お客様が喜んでくださるのはやはりうれしいですね」と瀧本さん。
「なんとか軌道に乗ったと思うのはごく最近ですよ」と言いながらも、技術アップへのチャレンジが終わることはありません。デザインソフトのイラストレーターやフォトショップの使い方も学び、持ちこまれたデザインのトレースも自らが行っています。
また刺子織を活かしたオリジナルトートバッグもデパートの展示会などで注目の的。さらに半纏技術では、表からは透けているのに裏側には総柄が施される、まるでマジックのような技術が「2013年グッドデザインしずおか奨励賞受賞」を受賞しました。
どれも自らが一つ一つ創り上げているため、「日々多忙」と嬉しい悲鳴を上げていらっしゃいますが、すべてご自身で手掛ける瀧本さんならではの味わいこそが、ファンを魅了している理由なのでしょう。
【DATA】・・・・・・・・・
滝本職布有限会社
浜松市浜北区宮口1580-2
織屋の半纏屋さん/各種織物 作務衣 祭り用品製造販売
ゴロさんのお店/黒猫工房